[あらすじ]川口俊和「この嘘がばれないうちに」を読む[相関図付き]~数の秘密、ワンピースの女の正体、すべての謎が解ける?

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小説

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ISBN:9784763136077

この嘘がばれないうちに

どうもです。注目の本を1冊じっくりと解説していくシリーズ。今回は川口俊和著「この嘘がばれないうちに」を取り上げていきます。

前回紹介した「4回泣ける」という触れ込みのもと、売上が65万部を突破するした「コーヒーが冷めないうちに」の続編に当たる作品です。

川口俊和「コーヒーが冷めないうちに」のあらすじと感想を人物相関図付きで。有村架純主演で映画化決定。現実が変えられなくとも、自分自身が変わることはできる。

また9月には映画化もされています。そちらのレビューもアップしました。

映画「コーヒーが冷めないうちに」の感想を紹介。時田計不在、オリキャラ追加の改変が影響。これでいいのか時田数よ。

舞台は「コーヒーが冷めないうちに」から7年後。とある街の人気の少ない路地裏の地下にある小さな喫茶店「フニクリフニクラ」。ここはある不思議な「都市伝説」があった。とある座席に座るとその時間だけ、望んだとおりの時間に戻ることが出来るという。しかしそこには本当にややこしい戻るためのルールがあった。

相変わらず流はこの店でマスターを務め、従妹の数もウェイトレスとして働いていた。流の妻である計は子供を産んだ後にこの世を去り、忘れ形見となった子供・ミキは元気な小学1年生になっている。

そんな「フニクリフニクラ」に娘の結婚を控え、22年前に亡くなった親友に会おうとする男、ある事情から母親の葬儀に出られなかった男、結婚できなかった恋人に会おうと過去からきた男、そして30年前に妻を亡くし、プレゼントを渡せなかった元刑事の男がやってくるのが今回のお話。

物語は並行して前作で謎のまま終わった白いワンピースの女の正体、そして淡々と仕事をする数が抱えている、あまりにも重い過去が明らかになっていきます。

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あらすじ

第1話「親友」

中年男である千葉剛太郎は娘・遥の結婚を控え、かつて旧友から聞いた「過去に戻れる喫茶店」の「フニクリフニクラ」を訪れる。22年前、一文無しとなり路上生活を送っていた彼に救いの手を差し伸べた彼の友人・秀一は、その1年後に事故で妻とともに他界。残された遥を男手一つで育てたのが剛太郎だった。しかし遥が結婚することは、これまで父親として振る舞ってきた剛太郎の嘘がバレる瞬間でもある。剛太郎は「フニクリフニクラ」で秀一と再会し、娘へのメッセージを録画しようとするが…。

第2話「親子」

美術教室で数の先生である絹代が亡くなった。この店の常連である絹代の子供・京子は、弟である幸雄が葬儀に出なかったことを気にかけていた。そんなある閉店後の「フニクリフニクラ」に一人の男が現れる。その男こそが弟の三田幸雄だった。陶芸家を目指し修行を積んでいた幸雄は、ある出来事により多額の借金を抱えてしまっていた。そんな中で聞いた母の訃報に、彼はある嘘をつくために母が生きていた時間へと戻るのだが…。

第3話「恋人」

クリスマスの夜、倉田克樹と名乗る男が過去から現れた。彼は同僚だった森麻美という女をある条件に当てはまっていたら連れてくるよう、先輩の二美子に伝えていた。倉田は麻美に結婚の約束をしていたが、病魔に侵されており、3年後である「今」はすでに亡くなっていた。そんな倉田の前に麻美が現れ、自分は結婚していることを伝える。しかしそれは、二美子が倉田のために考えた嘘だった。

第3話「夫婦」

定年を迎えた元刑事の万田清は数に薦められたネックレスを妻へのプレゼントとして贈ろうとしていた。その妻は30年前、ある事件に巻き込まれ命を落としてしまっていた。急な仕事で「フニクリフニクラ」の妻との待ち合わせに行けなかった清は、このことがトラウマとなり以降、刑事としての働くことでで自らを罰していた。しかしこの店で過去に戻った人間を調べるうちに、考え方が大きく変わるようになる。そして清の伝えたある事実が、あまりに過酷な過去にとらわれていた数にとって長い冬の終わりを告げることとなる。

登場人物・人物相関図

相関図

時田数(ときたかず)

「フニクリフニクラ」で相変わらずウェイトレスとして働いている。他人と交わるのを面倒と考えていて、特に友達は多くない。人の行動や意見に対して感傷的にならず、独特の距離感を持っているが、そのきっかけとなった幼少時の心の傷が今作で明らかになる。

時田流(ときたながれ)

「フニクリフニクラ」のマスターである大男。時田数の従兄でミキの父親。

時田ミキ(ときたみき)

時田流の子供。前作では15年後の姿で登場していたが、今作は小学1年生。自分の事を「わっち」と呼んだり変な替え歌を歌ったりするなど元気に過ごしている。時田数のようにお客にコーヒーを注ぐ役回りをやりたいと考えているが…。

清川二美子(きよかわふみこ)

医療系のシステムエンジニア。いわゆるバリバリのキャリアウーマン。前作で1週間前に戻って、恋人にやり直したい気持ちを伝えている。その後6年の月日を経て無事に結婚した。今作ではこの喫茶店の常連となっていて、2年前に亡くなった後輩からの頼みを聞き、その恋人を喫茶店に連れてこようとする。

賀田多五郎(かただごろう)

アメリカのゲーム会社に入社したゲームプログラマー。眉毛の上に大きな火傷の跡がある。その容姿などで二美子を好きになってはいけないという思いから一旦は別れを決意するが、未来から来た二美子との会話で「3年待って欲しい」という気持ちを伝える。その後ドイツに転勤したりなどで更に時間を要した後晴れて結婚する。

倉田克樹(くらたかつき)

二美子の後輩だったシステムエンジニア。3年前に交際していた女性にプロポーズをしようとした矢先、白血病と診断され余命半年を宣告される。自分の死期を悟り、相手が幸せになっているかを見るために未来へとタイムスリップする。

森麻美(もりあさみ)

倉田の同僚。別れた恋人との子供を流産した時に倉田にかけられた言葉をきっかけに、本格的に付き合うようになっていた。

千葉剛太郎(ちばごうたろう)

51歳の定食屋を営む男。連帯保証人となっていた知人の会社がつぶれ、路上生活者となったところを秀一に救われる。秀一が亡くなってからは、男手一つで天涯孤独となった遥を育ててきた。

神谷修一(かみやしゅういち)

剛太郎とはラグビー部のチームメイトだった。小さな定食屋を営んでいたが、22年前に不慮の事故で妻とともに亡くなる。

三田絹代(みたきぬよ)

絵画教室の先生で数の恩師でもある。半年前からガンで闘病生活を送り、その後逝去。

木嶋京子(きじまきょうこ)

この店の常連となっている40代前半の専業主婦。何事にも興味を示したり詮索深い性格。絹代が亡くなる前は子供を連れて「フニクリフニクラ」に来ていた。

三田幸雄(みたゆきお)

絹代の息子。京都の窯元で修業をしていたが、全財産を持ち逃げされ、一文無しとなる。そのために母の葬儀に出席できなかった。ある決意を胸に「フニクリフニクラ」にやってくる。幼少の頃に3度死にかけている。

万田清(まんだきよし)

元刑事。30年前に「フニクリフニクラ」での待ち合わせに行けなかったことで、妻が事件に巻き込まれ亡くなったと自分を責め、定年まで刑事として働いた。その後、「フニクリフニクラ」の都市伝説を目の当たりにし、過去に戻った人たちへの聞き込みを行う。ハンチング帽を欠かさずにかぶっている。

万田公子(まんだきみこ)

万田の妻。誕生日の日に「フニクリフニクラ」で清と待ち合わせをしていたが、相手が仕事のために現れず、その帰りに事件に巻き込まれ亡くなる。

感想・解説

ややこしいタイムトラベルのルール

前回の話で多分覚えきれなかった方もいると思いますので改めてここでもルールを載せておこうと思います。

  1. 過去に戻っても、この喫茶店を訪れたことの無い者には会うことが出来ない。
  2. 過去に戻ってどんな努力をしても、現実は変わらない
  3. 過去に戻れる席が決まっていて、そこに先客が常にいる。座れるのは、その先客が席を立った時だけ。最悪力づくでどかそうとすると「呪い」をかけられてしまう。「呪い」を解けるのは時田数だけ。
  4. 過去に戻っても、席を立って移動することはできない。席を立つと現在に戻ってしまう。
  5. 過去に戻れるのは、コーヒーを注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。この儀式を行うことが出来るのも時田数だけ。
  6. 過去に戻ったら、コーヒーは冷めきってしまう前に飲み干すこと。コーヒーを冷める前に飲み干さないと現実の世界に戻れなくなる。すなわち現世での”死”を意味する。

そのほか「亡くなった相手に会う時は、情に流されて現実世界に戻れなくならないようにするため、アラームを携帯する」「実は過去だけではなくて未来にも行ける。ただし未来のその日に相手が喫茶店を訪れているかは分からない」「一度この席で時間移動した者は、二度と過去に未来にも行けなくなる」といったルールもありますが、数が「面倒だ」という理由でこれらの説明は端折るようです。

男性だけのタイムスリップ、全体的に重い展開

「コーヒーが冷めないうちに」では4篇すべてが女性のタイムスリップでしたが、一転して今作ではすべて男性が過去や未来へと旅に出ます。

でしかも今作は設定がかなり重い。前作で亡くなった相手に会うためタイムスリップしたのはスナック経営の平井八絵子(現在は妹の遺志を継いで実家の旅館で女将を務める)だけでしたが、今作は4編中3編がこの設定。残る一つも余命宣告を受けた男が、すでに自分が亡くなっている未来へ(前作で時田計が行ったような)タイムスリップをする話であり、すべての作品で誰かしらが亡くなっているという話になります。でタイムスリップしようとする男達もかつてつらい過去を経験し、いまだにそのことを背負って生きています。命の恩人だった旧友を突然失い、その娘を育てた男。全財産を失い、死を決意した男。妻を死なせてしまい、そのことがトラウマになってしまった老刑事。

さらに白いワンピースの女の謎や時田数の秘密がこの重さに拍車をかけます。正直、ミキちゃんのパートでかなり明るくなっているので、この部分が無ければ相当重い作品になっていましたね。

白いワンピースの女の正体は?

過去に戻れる席にいる先客、白いワンピースの女。力づくでどかそうとすると「呪い」をかけてしまうわけですが、実はこの女性、というか幽霊の正体が早々と判明します。名前は要(かなめ)といい、「亡くなった夫に会いに行くためにタイムスリップしたものの、冷めきる前にコーヒーを飲み干すことが出来ず、戻ってくることが出来なかった」ために幽霊となってこの席に座っているというのです。このエピソードは前作でもサラリと語られていましたが、実はこの人、もっと言うとこの出来事が数の幼少時に経験したあまりにも重すぎる過去と大きく関係しているのです。

時田数の抱えてきた暗い過去とは?

独特の距離感を持ち、決して感傷的にならず淡々とタイムスリップの儀式を行う数ですが、そうなったきっかけが当時まだ小学生だったときに経験した、あまりにも過酷で重い現実でした。この出来事を機に、天真爛漫だった彼女は他人と交わることを避け、黙々とウェイトレスの仕事をし、夢遊病者のように街をふらついては知らないうちに自殺未遂を繰り返す。その後、流や絹代らの支えもあり、数は再びウェイトレスとしてタイムスリップの儀式を行うようになります。「亡くなった相手に会う時は、アラームを携帯する」などの配慮はこうした経験から生み出されたんですね。

あなたは、幸せになってもいいんです。

そんなあまりにも重い過去にとらわれていた数に、流や絹代は「幸せになってもいいんだ」という励ましの言葉をかけます。それでも自分は幸せになる資格はないと思い続ける数なのですが、最終章で清から語られるある事実で、数はついに幸せになる決心をします。その事実とは?

そんなタイムスリップするお客の心の変化だけでなく、数にとっての再生の物語でもある今回の小説。シリーズとしては一つの完結という形になるんでしょうね。ただ前作の最終章であった計が行った未来の話。あそこでマスターが五郎らしき人物に代わっていることや、流と数が北海道に行っているなどまだまだ続編が出来そうな感じもしますね。その辺り、作者がどう書くのか楽しみですね。