[あらすじ]川口俊和「思い出が消えないうちに」を読む[相関図付き]~函館で繰り広げられる4つの奇跡

OSAKAN HOT 100

小説

スポンサーリンク
FM802_Freaks
ISBN:9784763137203

思い出が消えないうちに川口俊和

FM802_Freaks

どうもです。注目の本を1冊じっくりと解説していくシリーズ。今回は川口俊和著「思い出が消えないうちに」を取り上げていきます。

ついに売上が100万部を突破した「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの最新刊となりました。前回までのシリーズ、そして映画のレビューは以下にアップしております。参考までにどうぞ。

川口俊和「コーヒーが冷めないうちに」のあらすじと感想を人物相関図付きで。有村架純主演で映画化決定。現実が変えられなくとも、自分自身が変わることはできる。
川口俊和「この嘘がばれないうちに」のあらすじと感想を人物相関図付きで。数の秘密もワンピースの女の正体もすべての謎が解ける?

また9月には映画化もされています。そちらのレビューもアップしました。

映画「コーヒーが冷めないうちに」の感想を紹介。時田計不在、オリキャラ追加の改変が影響。これでいいのか時田数よ。

舞台は「コーヒーが冷めないうちに」から7年、「この噓がばれないうちに」からは8年後。とある街の人気の少ない路地裏の地下にある小さな喫茶店「フニクリフニクラ」…ではなく、今回は北海道・函館市、ここに観光客でも知らない「名無し坂」と呼ばれる坂があり、この中腹にある「喫茶ドナドナ」という名前の喫茶店が舞台になっています。「フニクリフニクラ」の次は「ドナドナ」ですか。どちらも子供の頃に聴いた曲ではありますが、今回はあの超絶暗い歌が店名という、怖い感じがしますね。

で実はこの店も「フニクリフニクラ」同様、時間移動できる席があるのです。そのルールも同じ。これまでは「フニクリフニクラ」のマスター、時田流の母親であるユカリが店長を務めていて時間移動のコーヒーを淹れていたのですが、自由奔放な彼女はあることから店を休ませ突然アメリカへと出かけます。しかし残されたアルバイトの小野玲司は給料だけもらうという図々しい真似は出来ない。困った末に「フニクリフニクラ」を訪れ、流に「ドナドナ」を続けられないか相談をしたところ、母の勝手さに責任を持った流、だけでなく同じく「フニクリフニクラ」で働く時田数、そしてその子供で時間移動のためのコーヒーを淹れる力を持った時田幸も一緒に行くことになりました。

時系列的には「コーヒーが冷めないうちに」の第4章で時田計が出かけた未来がここで描かれています。あの時、「やむにやまれぬ事情で北海道にいる」と流は語っていましたが、つまりこういう事情だったわけです。で、「フニクリフニクラ」はというと、常連客の賀田多五郎・二美子夫妻がマスターを代行し、計の忘れ形見であるミキがコーヒーを淹れる役目をしている。ここで計とミキが出会う、というのが「コーヒーが冷めないうちに」でのお話でしたね。

今回は「ドナドナ」を舞台に自分を一人残して他界した両親に恨みを持つ女性、突然失踪した人気芸人、妹を亡くした影響で自らも精神を病んでしまった女性、そして全編に渡って登場する、アルバイトの青年・玲司とその幼馴染である菜々子の恋物語が描かれています。

スポンサーリンク

あらすじ

第1話「ばかやろう」が言えなかった娘の話

閉店間際の「喫茶ドナドナ」に瀬戸弥生と名乗る若い女が現れる。昼間にも一度店を訪れ、意味深な言葉を残していた彼女は、自分が物心つく前に事故死した両親に会おうとやってきたのだった。両親を亡くしてからすさんだ人生を歩んできた弥生は、自らを不幸にした両親を憎み、怨みの言葉をぶちまけるためにタイムスリップするが、そこで母の意外な事実を知ることになる。

第2話「幸せか?」と聞けなかった芸人の話

お笑いコンビ・「ポロンドロン」の轟木が失踪して数日後、相方の林田がお忍びで「喫茶ドナドナ」を訪れた。轟木が今は亡き妻の世津子に会うために「ドナドナ」に来ると考えていた林田は見つけたら連絡を入れるように玲司たちに伝える。そしてその日の夕方、ついに轟木本人が店に現れる。妻の世津子に目標だったグランプリの受賞報告をするためタイムスリップしたいと告げる轟木。しかし彼は愛する妻、そして目標を失ったことで自暴自棄になっており、タイムスリップから戻らないことを林田に残していた。

第3話「ごめん」が言えなかった妹の話

布川雪華が難病で亡くなって数ヶ月、ショックのあまり睡眠障害や幻覚に襲われるようになった姉の麗子は、この店の常連で精神科医の沙紀のカウンセリングを受けなければならないほどだった。そんな中、沙紀に連れられて「喫茶ドナドナ」を訪れた麗子。突然の雷雨で店内が停電したその時、彼女の前に現れたのは亡くなったはずの雪華だった。なぜ過去から雪華がやってきたのか。戸惑う麗子の前で雪華は伝えられなかった思いを伝えようとする。

第4話「好きだ」と言えなかった青年の話

東京での芸人オーディションに合格し、上京した玲司。そんな中、彼は幼馴染でこの店の常連だった菜々子が難病に侵されていて、アメリカで手術を受けることを知る。互いの思いを伝えられなかったことを悔やむ玲司は菜々子がアメリカに行く前の日へと戻るのだが…。玲司が未来から来たことに自分の手術が失敗したのか不安に思う菜々子、そんな菜々子に玲司は何を伝えるのか?

登場人物・人物相関図

相関図

主要人物

時田数(ときたかず)

「フニクリフニクラ」のウェイトレス。今作では37歳になっている。かつて自らが淹れたコーヒーでタイムスリップした母・時田要が戻ってこなかったことにショックを受け、以降他人と深く交わることを拒み続けていたが、要の思いを知り幸せになる決意をする。

前作で女児を妊娠したため、時間移動のコーヒーを淹れる力はすでに失っているが、相変わらず涼しげな顔で深い洞察力を見せる。ちなみに夫は世界的に著名な写真家の新谷刻(しんたにこく、婿入りしているため本名は時田姓だが写真家としては旧姓を用いている。映画版のオリジナルキャストで数の婚約者となる”新谷”亮介はここから取ったようですね)。

時田流(ときたながれ)

「フニクリフニクラ」のマスターである大男。時田数の従兄でミキの父親。今作では店を勝手に休業して渡米した母親の責任を自らが取って「ドナドナ」で働く。

時田ユカリ(ときたゆかり)

時田流の母親で数の母・時田要の実姉でもある。函館にある「喫茶ドナドナ」のマスター。時間移動するためのコーヒーを淹れる力を持っている。自由奔放かつ放っておけない性格の持ち主で、この喫茶店を訪れた少年の父親探しのために店を離れ渡米する。ある本の著者でもある。

時田幸(ときたさち)

時田数の子供。母から時間移動するためのコーヒーを淹れる力を引き継いだ。今作では「喫茶ドナドナ」でコーヒーを淹れる役目を担う。休日には図書館で本を借りるのが習慣となっており、中には非常に難しい内容の本を借りることも。

時田ミキ(ときたみき)

時田流と時田計の子供。今作では14歳になっている。時間移動のコーヒーを淹れる力を持っており、数に変わって「フニクリフニクラ」でコーヒーを淹れる役目を担う。過去からやってきた母・計と出会うため、東京に残っている。

賀田多二美子(かただふみこ)

元医療系のシステムエンジニア。「フニクリフニクラ」の常連で、前作で五郎と結婚した。今作では「フニクリフニクラ」を手伝っており、ミキの手助けをしている。

賀田多五郎(かただごろう)

二美子の夫。アメリカのゲーム会社に入社していた元ゲームプログラマー。眉毛の上に大きな火傷の跡がある。今作では流に代わって一時的に「フニクリフニクラ」のマスターを務めている。

小野玲司(おのれいじ)

函館大学に通う学生。お笑い芸人になる夢を持っており上京するための資金稼ぎに「喫茶ドナドナ」でアルバイトをしている。ユカリが勝手に店を休業したことに困り、東京に行ったついでに「フニクリフニクラ」に行き、流たちに相談する。

松原菜々子(まつばらななこ)

函館大学に通う今どきのおしゃれ女子。「喫茶ドナドナ」の常連で玲司の幼馴染。実は三年前に後天性再生不良性貧血を発病し、芸人を目指す玲司の邪魔にならないよう、ひそかにアメリカで手術を受けることになる。

村岡沙紀(むらおかさき)

函館のとある総合病院の精神科に勤める医師。実家が「喫茶ドナドナ」と目と鼻の先にあるため、出かける前に立ち寄るという常連客。歯に衣着せぬ物言いをする。同じくこの店に来ている布川麗子のカウンセリングも行っている。

タイムスリップする人物、その他

瀬戸弥生(せとやよい)

二十歳の女性。物心つく前に両親を事故で亡くし、その後親戚の家をたらいまわしにされたり、学校で親がいないという理由でいじめにあったりするなどしてきた。中学の時から登校拒否をするようになり、ネットカフェでのその日暮らしを続けている。そんな中、両親が残した喫茶店の写真が過去に戻れる「喫茶ドナドナ」であることを知り、住んでいる大阪から函館に行くための旅費を稼いでやってくる。目的は「死ぬ前に自分を一人にした両親への怨みの言葉をぶちまけること」。

瀬戸美由紀(せとみゆき)

弥生の母親。残した喫茶店の写真には幸せそうな表情で写っていたが、実は弥生以上に壮絶な人生を送っており、死を決意したところを時田ユカリに助けられていた。

轟木ゲン(とどろき)

人気お笑いコンビ「ポロンドロン」のツッコミ担当。銀縁眼鏡に恰幅の良い格好をしている。小学生のころから「ドナドナ」に通っていてユカリとも親しい。芸人になるため上京する際にもユカリのもとを訪れコンビ名も教えていた(もっとも、ユカリはまともに名前を言えなかったが)。

亡き妻のために目標だった”芸人グランプリ”を優勝したものの、その後”燃え尽き症候群”になり、突然”失踪”してしまう。実はひそかに「ドナドナ」を訪れ、世津子に優勝の報告をしようとしていたが…。

林田コータ(はやしだ)

人気お笑いコンビ「ポロンドロン」のボケ担当。背が高い方。解説されないと分からないボケをかます芸風。轟木とは「ドナドナ」で知り合い、意気投合する。轟木が失踪後、ひそかにここに来ると確信し、連絡を入れるよう伝える。

吉岡世津子(よしおかせつこ)

轟木の妻。小学5年の時にクラスでいじめにあっていたのを当時転校してきた轟木に助けられて以降、思いを寄せる。轟木、林田とともに同じ高等専門学校を受験し受かったものの、轟木だけが落ちてしまったことにショックを受け、高専を辞退して轟木と同じ高校に通う。轟木、林田とともに上京してからは昼夜問わず働き二人を支えた。

「ポロンドロン」がブレイクし始めた5年前に轟木からプロポーズを受け結婚したが、その時すでに病魔に襲われていて、その後ほどなくして亡くなる。最期の言葉となった「”芸人グランプリ”優勝」を轟木と林田は目指すことになる。

布川麗子(ぬのかわれいこ)

「喫茶ドナドナ」の常連。かつては妹といつも仲睦まじい様子だったが、突然妹を亡くしたショックから睡眠障害や白昼夢などの精神障害が出る。「全般性不安障害」と診断され、沙紀のカウンセリングを受けている。

「喫茶ドナドナ」の常連。両親を事故で亡くしてから、妹を大事に支えていた。いつも仲睦まじい様子だったが、突然に妹を亡くしたショックから睡眠障害や白昼夢などの精神障害が出る。「全般性不安障害」と診断され、沙紀のカウンセリングを受けている。マモルという男性と交際していたが、妹の死後は一方的に拒絶するようになる。

布川雪華(ぬのかわゆきか)

麗子の妹。「ドナドナ」でアルバイトをしていた。原因不明の難病に侵され、数か月前に亡くなる。自らの死を覚悟し、その時に麗子の障害を心配しユカリに相談していた。

感想・解説

もし、明日、世界が終わるとしたら

今回のキーアイテムとなるのが玲司の大学で流行っているという本「もし、明日、世界が終わるとしたら。100の質問」。その質問は”一人だけ助かる部屋に入るか入らないか”というものに始まり、借りたものを返すか、当たりくじを換金するか、結婚式を挙げるかなど多岐にわたっています。これまでの作品にあった「過去は変わらなくても、自分の気持ち一つで未来を変えることは出来る」というほかに、今作では「明日のことはどうなるかは分からない。自分が(もしくは相手に)不測の事態があるかもしれない。そうなってからでは遅い。その中で自分が伝えるべきことは伝えようという」というテーマが込められているようです。

人は必ず幸せになるために生まれてくる

今回のキーアイテムに並行して作品全体のテーマも重くなっています。4編中3編が亡くなった相手に出会うためタイムスリップする、もしくは自分が亡くなった未来へのタイムスリップで、残る1編もラストの難病の手術を受ける女性のもとへタイムスリップする彼氏という話で「この嘘がばれないうちに」同様、死をテーマにした重い作品が続きます。

中でも全編を通じてのカギとなるのがアルバイトをしながら芸人を目指すという玲司と幼馴染の菜々子の物語。最初は互いのことを特に意識していないのかなあというような感じだったのですが、他の人達のタイムスリップの話が進むにつれ、菜々子の方にある変化が訪れます。そしてラストのエピソードで語られる難病、その事実を知り、果たして玲司は何を伝えようとするのでしょうか。

時田ユカリのミラクルぶり

そして今作、影で大活躍するのが「喫茶ドナドナ」のマスター、時田ユカリ。アメリカ人の子供の親を捜すため、一緒に渡米するというところから今作は始まるのですが、他のタイムスリップの話にもしっかりと絡んできます。弥生の母親の身投げを止めたり、「ポロンドロン」と昔からの付き合いだったり、麗子のために一芝居を打ったり。性格はおおざっぱで時間移動のルールも玲司に丸投げ。困っている人を見ると放っておけない。そんな後先考えないようなユカリですが、すべての行動が結末を見通したような「神がかっている」展開になっていくのです。そしてキーとなる本「100の質問」にもユカリは絡んでいます。何が絡んでいるか?それは最後まで読めば分かりますよ。

今回は「フニクリフニクラ」を離れた番外編的な見方もできそうですが、謎はいくつか残されています。例えば今作で登場した時間移動する席に座る先客=老紳士。この人の正体は結局明かされませんでしたが果たして誰なのか。「フニクリフニクラ」や「ドナドナ」、そして時田家がなぜ時間移動の能力を持つようになったのか。この次のシリーズでぜひとも明らかにしてもらいたいものです。