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あらすじ・感想
バベル
五月のある土曜の午後。一人の男が高層ビルの展望室を占拠した。クロスボウに銃、爆弾を備えた男は多数の観光客を人質にとる。その目的は政治目的でも身代金でもなく、ただ幸せな客を苦しめることだった。自分の人生を狂わせた、一人の男に見せつけるために…。
12年前にこの場所で起きた万引き事件。この出来事で”はめられた”男は高校をやめ、その後の仕事もうまくいかなくなります。一方の”はめた”男はその後無事に就職、結婚をするなど幸せな日々をブログに綴っていた。その恨みを他の幸せな客に対して向けるという理不尽かつ残虐な仕打ちを仕掛ける、という話ですが、物語ではその”はめた”男が同じ展望室に来ることによって意外な真実が明らかになります。幸せな思いをつづっていた”はめた”男こそ、実は絶望の日々を送っていたという。
しかしこの男がなぜクロスボウに銃に爆弾といった武器を保持していたのか。この疑問が最終章の「バビロン」にて明らかになります。
ナイト・ジャーニー
深夜の高速バス。けがを負った一人の男に近づく義波。男はその前に殺人を犯していた。すべては復讐のため、正義のために。義波はそんな男に毒薬を仕込み、依頼人からの復讐を執行する。
子供や妻のため、単身赴任で働いている男がターゲットとなる話なのですが、その仕事というのが社会的に言う犯罪集団。その犯行中に起こしたある事件をきっかけとして対立した男は仲間を殺してしまう。これを復讐、正義の名のもとに行ったと。当然その依頼人はある事件で亡くなった人の家族の復讐だろうと考える男ですが、実は意外な人物からの依頼だったことが明らかになるのです。
グラスタンク
中学時代の友人からメールで誘いを受けた女。「どうしても聞いてほしいお願い」という文言が気になり、久々に顔を合わせる。そこには「復讐代行業者」を名乗る義波という男が同席していた。友人はかつて二人の同級生であり、その後”事故死”した少女の復讐をすることを告げる。
亡くなった少女はあることで二人の仇を取り、それがきっかけとなって女たちと親しい関係となります。しかし高校に上がる前に”水死”してしまうのです。警察は事故と断定したものの、納得のいかない友人は必ずいるであろう犯人を見つけて同じようにしたいと義波に告げるのです。やがてその少女がチャットルームで年上の男と通信していることが判明、その男が容疑者として復讐の対象にされるのですが…。二人の親友にとって憧れで理想だった少女の孤独な部分、その真実を知ったがために起きた悲劇。あまりにも残酷な青春が描かれています。ちなみに第六十九回日本推理作家協会賞短編部門候補となっている作品でもあります。
スプリング・ブレイク
伊庭果菜子は傷だらけになっていたところをカフェの女性オーナーに保護してもらっていた。今では幸せな日々を過ごしている。その二人にもとに義波がやってくる。”スプリング・ブレイク”を手に入れようと。実はこの女性オーナー・裏で人身売買を行っており、ある策略から果菜子を差し出そうとするのだが…。
伊庭果菜子が初めて登場し、悪意銀行のエピソードへとつながる作品となります。ターゲットとなっている女性オーナーはかつて裏で人身売買という犯罪に手を染めていました。彼女はそのことを果菜子に伝えたうえで何とか果菜子を逃がそうとある行動に出るのです。しかしこの行動こそが、悪意銀行にとってシナリオ通りの展開になってしまうとは。女性オーナーの正体、そして伊庭果菜子がなぜ近づいてきたのかが最後に明らかになります。
バビロン
「バベル」の続編的作品。展望室についていた警備員が逃げ遅れた老人と孫娘を見つけ助けようとする。一方で犯行に及んだ男とその友人=義波が話をしていた。警備員は展望室からの脱出を図ろうとするところで義波が現れ、手負いの犯人を連れビルの下へと進んでいく。犯人に逃げられると考えた警備員、そして老人と孫娘も下へ降りていくが、警備員にとって、残酷すぎる展開が待ち構えていた。
「バベル」で悪意に満ちた犯人が主役なら、こちらは正反対に正義感にあふれた警備員が主役となります。しかしそんなたわごとも悪の前に通用しないという残酷な現実を自らの手で知ることになり、警備員の心は立ち直れないほどの衝撃を受けます。老人と孫娘の正体は?義波や犯人の行動は正しかったのか?正義とは?悪とは?を考えさせられる作品です。
そしてこの作品でついに援助者と悪意銀行が初めて対峙することになります。そしてこの章をきっかけに、続く「TAKER」悪意銀行の攻勢が始まり、援助者は絶体絶命にピンチに。果たして義波の運命やいかに?