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ドラマ化決定。江上剛「ラストチャンス 再生請負人」を読む~人生、七味唐辛子。

どうもです。今回は新企画として、注目の本を1冊じっくりと解説していきたいと思います。第1弾はこの7月からドラマ化も決定した江上剛の企業小説「ラストチャンス 再生請負人」です。ドラマが楽しみな方、ぜひこちらで予習・復習がてら参考になさってください。

江上剛氏は第一勧業銀行での入行時代からその経験を生かした企業小説を多く書かれておりますが、この作品も主人公は元銀行マン。加えて主な登場人物の多くが銀行出身だったり、融資の回収をもくろむ銀行との対立があったりと、何かと銀行が活躍する話となっております。

Contents

あらすじ

樫村徹夫は東大を卒業後、WBJ銀行に入行し、順調にエリートコースを歩んでいた。しかし、当のWBJ銀行が不良債権が増大し、大手の菱光銀行に吸収合併されてから雲行きが怪しくなり始める。同期で先に銀行をやめた宮内亮の送別会に参加した帰り、樫村はふと辻占い師の老女に自らの手相を占ってもらうと「人生、七味唐辛子。深みのある味にするか、辛すぎて酷い味にするかは自分次第」と言われてしまう。数日後、これまでいた部署から系列会社へと”左遷”させられた彼は、この人事に不満を持ち銀行を去ることになる。

新しい職場を探していた中で、樫村は投資会社の社長である山本知也から、彼が筆頭株主となっている飲食店チェーン、デリシャス・フード・システム(DFS)の再建を要請される。前のオーナーで創業者だった結城伸治は、かつて飲食業界の寵児と言われていたが、急激な業績拡大で資金繰りが悪化。山本に株をすべて売却し、オーナーの座を退いたのだった。

樫村は”財務責任者”(CFO)という形でDFSで働くことに。そこで経営の実態をつかむために、財務部長の岸野聡やその部下で若手の柏木隆一らと調査を行う。しかし、いまだに結城を慕っている岸野はあまり樫村には協力的な姿勢を取ろうとしない。

そんな中、樫村と柏木は前オーナーの結城が、資金繰りのためにフランチャイズ店の権利を売却し、それを売り上げに計上して水増ししていることを突き止める。そしてこのことを知った社長の大友勝次が、なんと職を投げ出す形で会社から去ってしまう。樫村はやむを得ず、後任の社長に就任する羽目になるのであった。

早晩、強引に購入させられたオーナーが権利金の返却を求めて抗議に来る。フランチャイズ店権利の買い戻しによる含み損は130億円にのぼり、このままでは債務超過で上場廃止となってしまう。絶体絶命の状況の中、樫村はマラソン仲間の塩田の紹介で出会った十和子フードの社長・岡田十和子に支援を受けようとする。これに十和子は前向きな姿勢を見せるのだが…。

登場人物・人物相関図

  • デリシャス・フード・システム
    • 樫村徹夫(WBJ菱光銀行→DFS財務責任者→DFS社長)
    • 岸野聡(財務部長)
    • 柏木隆一(財務部)
    • 渋川栄一郎(常務執行役員)
    • 久原加奈(総務)
    • 中野美由紀(DFS系列の「北京秋天」従業員)
    • 水島圭吾(フランチャイズ店業態担当)
  • それ以外の主要人物
    • 宮内亮(WBJ菱光銀行支店長→電子部品メーカー社長名代)
    • 大友勝次(リンケージ社→DFS社長→?)
    • 岡田十和子(十和子フード社長)
    • 小沢幸太郎(伊坂商事常務取締役)
    • 龍ヶ崎司郎(龍門興業代表)
    • 杉山誠三(WBJ菱光銀行営業課長)
    • 斎藤博敏(WBJ菱光銀行営業担当・杉山の部下)
    • 山本知也(JRF(ジャパン・リバイバル・ファンド)社長)
    • 結城伸治(元DFSオーナー)
    • 樫村明子(樫村の妻)
    • 樫村幸太郎(樫村の子供)
    • 辻占い師の老女

相関図

解説

何かと登場する辻占い師の老女

今回樫村を占った「辻占い師の老女」。彼女が占いの場のみならず、ふとした場面で出会ったり、時には幻影?幻聴?といった形で登場するファンタジー的な要素もあり、多少このあたり現実離れした感じはありますね。これはプロローグで書かれているのですが、どうも実話を基にしたそうで、実際に作者が占い師に「人生七味唐辛子」という話をされたとのことです。人生の七味…これは「うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみ」のことを言うのですが、占いの通り、エリート銀行員だった男がDFSに来たことによって五里霧中、四面楚歌、理不尽な仕打ちに次から次へと遭うことになるのです。その経験を樫村は深みのある味にすることが出来るのでしょうか。

フランチャイズ店権利を利用する金融屋たち

DFSは店舗展開などのプランを練らずにひたすらフランチャイズ店の権利を売却し、無理やり取引先に購入させました。こうしたつけが回り、権利金の返却を求めるオーナーが多く出てくるのです。しかし、DFSに返済する資金は限られています。全員の要望に応えられるわけがなく、対応に苦慮するばかり。

樫村は現在のDFSの状況を説明し、必要であれば出店してもらうために買い戻しの断念させたり、買い戻し金額の低減をお願いして回るのですが、中には龍門興業の龍ヶ崎のように投資目的で金を貸し、高い金利で返済を迫る金融屋もいて、なかなかうまくいきません。その上、龍ヶ崎の提案した「オーナーの要望を自分がまとめて」要求する案を蹴ってしまったがために、龍ヶ崎を完全に怒らせてしまった樫村。これが、後に大きな危機へと発展することになります。

うらみ、つらみ、敵愾心をむき出しにする宮内たち

さらに樫村の前に立ちはだかるのは金融ゴロだけではありません。ライバルや頼みにしている銀行も信用できない状態に。

WBJ菱光銀行で樫村と同期だった宮内は、樫村のキャリアにうらみつらみを持っていて、早々と合併したWBJ菱光に見切りをつけ、電子部品メーカーの重役に就きます。そしてDFSの社長の座から逃げ出した大友を宮内の子会社の重役に据え、金融取引をやろうというのです。実は大友と同期の伊坂商事の小沢がDFSに関心を寄せていて、宮内はその交渉窓口に大友の会社をつかせることを提案します。しかもその間、他との交渉は許さないという条件付きで。これが成功すれば社長の座につけるともくろむ大友と、DFSの交渉を支配しようとする宮内。どちらもDFSのことよりも自分の利益を最優先に考えているいけ好かない人物ですね。

そしてWBJ菱光銀行も、資金繰りに悩むDFSを見放すようになります。改装やメニュー開発といったことさえままならない現場。DFSとしては増資したい。しかし銀行は貸しはがしを行った挙句に融資を減らし、少しでも回収できるようにしようというのです。

自分の利益と言えば樫村に仕事を依頼した山本もそうですね。彼はファンド会社の社長なので利益にならないものには手を出さない。適当に売り飛ばすだろうという彼の目論見と、会社を本気で再建しようと考えている樫村の姿勢には差がありすぎ、そのことで山本の態度は一変。本性をあらわにし始めます。

とまあDFSをおもちゃのように扱う輩ぞろいで、樫村は苦境に立たされるわけです。

敵か?味方か?十和子&小沢&結城

DFSの再建に向け、キーパーソンになる人物を見ていきましょう。

まずは岡田十和子。十和子は飲食店の社長として辣腕をふるっていて、樫村も敬服しています。しかも樫村の話を聞いた十和子はDFSに関心を示し、支援すると樫村を骨抜きにして誘惑までするのです。しかし、ある人物の一言で、この話には裏があることが分かります。十和子が支援を申し出た理由とは?

そして伊坂商事の小沢幸太郎。菱光銀行出身の彼は大友と同期で、宮内の話ではDFSに関心があるといいます。伊坂商事の支援を受ければこの窮地をしのげられる。しかし交渉は大友の会社が内密に進め、その間、樫村は小沢に連絡はしてはいけないと警告されます。以前、菱光銀行のOB会で樫村は小沢に出会い、「困ったことがあれば、いつでも相談してください」と助言を得ていました。1回とは言え面識のある二人、なぜ連絡を取らないよう、宮内に釘をさされたのか、その真意とは?

さらにカギを握るのが元オーナーだった結城。資金繰りに悪化してフランチャイズ店の権利を大量に売却し、山本に株を売りつけて逃げ出した、いわばDFSの債務超過状態を招いた張本人。しかし、渋川や岸野は今でも結城のことを慕っています。あくまでリンケージ社が自分の利益を得るために結城を唆したことが原因で、結城だけが悪いわけではない、という。始め樫村は現在の状態にしてしまった結城を非難するわけです。しかしながらいざ具体的な再建案を考えた時、どうしても責められない気持ちが芽生えてきます。実は結城は従業員のことを何よりも大切に考えていました。そのことが樫村に一つの答えを出させるのですが、その中に十和子や小沢はどのような形で絡むのでしょうか?

企業再建に必要なのは”夢”

経営不振の「北京秋天」直営店を閉店させることを樫村が告げた際、従業員の美由紀は反対し、「社員に夢を与えてください」とお願いをします。それこそ社員が考えていることでした。厳しい経営環境によって店が閉鎖されたり人員が減ったりと後ろ向きになってしまう企業の再構築。果たしてそれで明るい未来は待っているのか。目標やビジョンもないまま、ただいたずらに店を続けていた。本気で店をよくしようと思っていなかったことに、追いつめられてようやく気付いたわけです。1か月の猶予期間を設けられた「北京秋天」はそこで見違えるような結果を出し、閉店を免れるどころかその後一番の売り上げを見せるように成長します。

一方、樫村は「自分は再建は出来ても夢は与えられない」と悟ります。果たして樫村はDFSにどのような道筋をつけるのか。そして”夢を与えられる”人物とは誰なのでしょうか?

従業員のため、真剣に企業再建しようとする元銀行マンが、私腹を肥やそうとする人間を最後に懲らしめるところはやはり痛快です。ドラマ化でも楽しみにしています。

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