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[モーニングストーリー]池井戸潤「空飛ぶタイヤ」~死亡事故は大会社の過失だった?池井戸作品初の映画化。

空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫) [池井戸潤]

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日曜日を有意義に過ごすための物語に案内するモーニングストーリー。今週は池井戸潤原作、映画も公開された「空飛ぶタイヤ」を取り上げます。

Contents

あらすじ

ある日の午後、1台のトラックが事故を起こす。走行中にタイヤの一つが外れ、そのまま転がり縁石にぶつかって跳ね上がった。そして、落ちたところに運悪く歩行者が…。幼い子供と一緒に歩いていた主婦が飛んできたタイヤで後頭部を強打し即死した。この痛ましい事故は調査の結果、トラックの「整備不良」と判断された。

従業員が20人ほどの運送会社「赤松運送」がこの事故の責任を負わされることに。社長の赤松はそのトラックの整備を担当した若い従業員を即座に解雇する。しかしその若き整備士である門田はチャラい見た目の金髪とは裏腹に仕事に対しては大変まじめな男で、事故を起こしたトラックも完璧と言える整備が施されていた。脱輪するミスはどう考えても起こるはずがない。そして事故を起こしたショックから仕事をやめてしまったドライバーは、普通にゆっくり走っていたら何の前触れもなく突然タイヤが外れたと証言。そんな事故が自分たちの落ち度で起きたと言われるのは到底承服できない。赤松社長はトラックの製造元である大手の自動車メーカー、「ホープ自動車」に事故原因の再調査を依頼することにした。ところが担当の人間になかなか連絡が取れない。

その赤松からの執拗な連絡を無視し続けていたのが、ホープ自動車のカスタマー戦略課課長である沢田。ちっぽけな運送会社が天下のホープ自動車に難癖をつけてきている。結果は出ており、これ以上こちらで出来ることは無い。そう突っぱねようとするが、事故の具体的な原因がはっきりするまでは整備不良と認めるわけにはいかないという赤松の主張も一理ある。沢田がしつこい赤松への対応に頭を悩ませていると、何人かの同僚のリークによって社内に怪しい動きがあることを知る。それがリコール隠し。すでに製造販売した車に事故を起こす欠陥が見つかっていたのに、その回収と修理にかかる膨大な費用を惜しみ、そんな欠陥が無かったことにして放置しているのではないか?これが本当だとすれば、例の死亡事故は赤松運送ではなく、ホープ自動車の過失ということになる。正義感に突き動かされるまま、この疑惑の真相に近づき、大企業の出世コースを捨てることが沢田にできるのか?

赤松と沢田。死亡事故という重い現実を真摯に受け止め、疑惑にそれぞれの立場で立ち向かおうとする。大会社の上層部の圧倒的なパワー、世間からの激しいバッシング。赤松運送は明日にでも倒産してもおかしくない状況、時間はない。正義とは?守るべきものとは?男たちの最後の闘いが始まった…。

解説

池井戸潤原作の小説、初の映画化となります。中小企業が巨大なメーカーに真っ向から立ち向かう。圧倒的な財力と人脈を利用してねじ伏せようとする卑怯な連中を相手に、会社と従業員の生活を守るために社長が孤軍奮闘するという、池井戸作品では毎度お馴染みの構図です。もう筋書きは見なくても分かっているのにやっぱり面白い。これは現実にあった出来事をモデルにしているんですけれども、ビジネスマン同士の闘いをエンターテイメントで表現することにかけては天才ですね。

この作品で面白いのは沢田という微妙な立場です。始めはホープ自動車の一員として赤松と対立するわけですが、自分の会社の不正に気付いた時から葛藤が始まります。赤松がホープ自動車をぎゃふんと言わせるためには沢田のような敵の内部の人間を一人でも味方に付けないとどうしても難しい。熱血漢の赤松とクールで冷静、沈着な沢田。水と油のような二人が一つの真実を暴くためにだんだんと不思議な協力体制になっていくんです。そんな主人公二人の関係の変化も見どころの一つです。

「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」など池井戸作品の逆転物語に胸を熱くしたことのある方なら間違いなく楽しめる作品です。ぜひ。

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