FMCOCOLO×FM802「Our Osaka Our Ozawa」。第4弾はFM COCOLO「THE MAGNIFICENT FRIDAY」(2/23)にて。小沢健二が語る”説明”と”詩”。
ゲスト:小沢健二
DJ:加美幸伸
説明屋さんがやってくる
小沢:小沢健二です。最初、モノローグというか朗読から始めたいと思います。題は”説明屋さんがやってくる”という題です。
今の世の中は、説明に満ちている。何か「面白いなあ」と思うことがあると、「あれはね、」と説明屋さんがやってくる。「面白いなあ」という気持ちにひたっている暇はない。説明屋さんの説明は、いつもどこかで聞いたことがある感じがする。そして、何かがすごく怪しい。
例えば、子供用の図鑑についているDVDを見ていると、”食虫植物”という植物が映って虫が鼻に止まると、花が閉じて虫が飲み込まれる。「面白いなあ」と思って見ていると、すかさずそう、説明がやってくる。
その説明はこう。「食虫植物は、花の赤い色で虫をおびき寄せて食べてしまう」。どこかで聞いたことがある説明だと思うが、僕は「待て待て待て待て巻き戻して巻き戻して巻き戻して」と思う。何かが怪しい。
確かに、その植物の花は赤い。しかし、花の赤い色で虫をおびき寄せると言うならば、その花が”おびき寄せる”という意思を持っていることを証明しなければならない。花が”虫をおびき寄せよう”と考えている脳はどこにあるのだろう。”花に脳がある”とか”花には意思がある”と証明した人はいない。
しかも、たとえ花に脳があってもそれだけでは証拠不十分。その花の意思が”おびき寄せる”だと証明しなければ、その植物は”赤い花で虫をおびき寄せる”とは言えないはず。なのに、説明屋さんはサラッと平気で言うのだ。”花は赤い色で虫をおびき寄せる”と。そして、僕らはすっかりその説明に慣れてしまっていて「ああ、あれね。」と思ってしまう。
この科学がときどきする、全く科学的じゃない説明を覚えちゃって人に言ったりさえする。だが、食虫植物と呼ばれる植物は思っているかもしれない。「なんだよその勝手な説明。全然違うよ。食いたくないわけ本当は、虫なんか。虫乗っかると口閉じちゃうんだけど、ホントは気持ち悪いの。食べちゃうけど、別におびき寄せてないわけ。勝手に入ってくんの。」と思っているかもしれない。まだ発見されていない花の脳で。
科学からくる科学的じゃない説明と言えば、”宇宙の90パーセントはダークマター、暗黒物質で出来ている”という説明もむちゃくちゃな気がする。説明によれば、ダークマターとかダークエナジーとは”宇宙の90パーセントを占める、まだよく分かってない物質”という。
「ちょっと待った。そこ、巻き戻して。」90パーセントもあるよく分かってない物質、しかもその物質の中には無限の数のよく分かってない物質があるかもしれないという。それってもしかして、宇宙の90パーセントはよく分かっていないっていう話だろうか?
ま、いろいろ事情はあるんだろうけれど、”ダークマターというものがある”ってそんなに世界に向かった大々的に説明しなくても。だってそれって、”未来はフューチャーという状態であることが分かっている”みたいな話だ。”未来は分からない”というと悔しいから、分からないという状態に”フューチャー”という名前を付けてしまう。すると、”未来はフューチャーという状態であることが分かっている”と説明をつけることができる。でも「そんな説明自分の中にとどめてくんない?」と思う。
もちろん、科学が嫌いと言ってるのでは全然ない。哲学の延長である科学というもの、僕はもちろんそこから出てくる説明とか考え方とかが好きである。だからこそ、そこから変な説明とか変な考え方が現れないといいなあと思う。
ともあれ、何かが面白いと思っていると、必ず怪しげな説明屋さんが怪しげな言葉を持ってやってくる。「ねえねえ、説明できないこと説明しなくてよくない?」と思う。説明屋のみなさん、たまには黙っていてほしい。
ある午後、僕と峯田和伸君はお互いに離れた場所で「レンブラント光線」という、とても素敵な名前の付いた現象を見る。僕らは言葉を失う。その時、その瞬間に飲み込まれる。大きな光の中に。しかし、説明屋さんがどこからか忍び寄ってくるのだ。「科学的に言うとあの現象は…」
うるさい、ちょっと黙ってて。今、大事なとこだから。と思う。おしまい。
加美:ありがとうございました。僕正に最近ね、僕の友達が”あるもの”に当たってお腹を壊した。”あるもの”を食した時に。で、”そのもの”を彼は「”このもの”に当たったから、おなかを壊した。もう”このもの”は食べない」というわけですよ。けど僕からしたら、”このもの”は何も悪くないのに、”このもの”は海を美しくするために一生懸命毒のあるものを吸収して海を奇麗にしようとしてるのに、なんで”彼”はそんな悪者扱いされるんだ?なんてことをすごく考えていて、「誰が決めたんだ」とかいろんな人が説明を加えていって、僕は絶対断固として”彼”は悪くないって言い続けたいんですが。何でしょうね。でみんながそれで、それが当たり前だからと言って「それは悪いもんだ、私も食べない」。そんなもんじゃない、食べたらいいんだけど、”彼”は何も悪くないよ。今そう言ったものも含めて、いろんなものをものすごく感じました。
小沢:そうですね。変な通説ってのがすっごいありますよね。さっきも”ダークマター”聞いて知ってるじゃないですか。でもよく見ると、無数のよく分かってないものが…とか。「じゃあ”ダークマター”って言わなくてもいいんじゃないの?」ってなるんですよね。
加美:で、見つけた時に自分でどんどん知りたいって探求心持ってインプットしていくことがとっても楽しいのに、そこを全く排除させてしまう人もいるでしょ?
小沢:ああ、名前付けてね。それ分かってるから。
加美:そう言うもんだからって。それが僕は嫌で「ちょっと待てよ」って。「ここの間の僕の時間はどうしてくれんの?」って。
小沢:確かにね。「もうそれ説明ついてますよ」みたいなね。でも説明がよく聞くとあんま付いてないというか。僕は食虫植物のやつが”花が色で虫をおびき寄せて”というとこがやっぱりめっちゃくちゃ…要するに人間社会の”若い女は色気で男を”とか、そういうのの反映に過ぎないというか。だって考えてる意図がないですよ。でも人間社会の色気でどうのみたいなの、しかもそれ、かなり男中心の考え方で説明を…「お前それ、男が好きで言ってるだけじゃないか」って。男が勝手に言ってるようなことを植物にまで当てはめて、植物そんなことを思っているか分かんない。絶対証明できないのに、”おびき寄せて”とかよく言うなって。
加美:”おびき寄せる”とか言っても、男はそんなリアルに分かってないもんね。やらしい本読んだり、やらしい映画見たりして得た情報がメインやから。幼いころから何も変わってないんですよ。
小沢:そうですよね。それを植物にまで当てはめてその…何か人間社会の考えのパターンを無理やり通説にしていくっていうのは結構めちゃくちゃな気がするんですよ。だから、説明が超人間中心というか。そういうことで人間の行動を正当化してる感じもあるっていうのが。「植物もやってるからさ、おびき寄せられちゃう」みたいな。
加美:そういう見方で見るとまた面白い発見があったりするんですけどね。
小沢:そうですね。それは面白いですね。でもそれは詩であって説明じゃないですよ。科学じゃない。詩は…僕は自分が詩をやるから、詩をやってる人には気が付くんですよ。ただ科学者っていう肩書を使って詩を科学のように言ってる人はものすごい気になりますね。「待て待て待て待て」なんですよ。それがこのモノローグの後ろにはあって、スティーブンティンカーっていう進化心理学者と言われる人がいるんですけど、彼は”心はこう動く”っていう本を出したんですね。それで進化心理学の人が”心がこう動く”と言うんだから心はそう動くに違いないと思うじゃないですか。ところがそうではなくて、それはティンカーが思う…データとか見ると「僕はこう思うな」って話なんだけど、やっぱハーバード大学の進化心理学者が言うんだから間違いないみたいになるじゃないですか。そうすると他の科学者がいっぺんに「ええ?違う違う違う違う、そこまで分かんない」てのを言うんだけど、それが追いつかないんですよね。彼のブランドの方が強いし、それが通説を作っちゃうんですよね。でもそれは通説であって、科学ではないから、僕にとっては彼の中に浮かぶ”詩”だと思うんですよ。それ、詩は勝手だけど、詩の時は”詩”って言ってくださいっていうかさ、僕は自分が詩をやるから他の人の詩にも敏感だし、「あ、これは思い切ってこうだ」って言っちゃってるだけなんだが、ていうのはそれはいいことだし、「こうだ」って思うことは素晴らしいことだし、詩ってそういうことだから。「分かってないけどこうだ、完璧にこうだ、君と僕とは恋に落ちるのさ」って言っちゃうのは素晴らしいけど、それは科学じゃない。そういうことは気になりますね。
MUSIC:小沢健二「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」
- アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)
小沢健二
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