[モーニングストーリー](6/3)池田久輝「ステイ・ゴールド」ハードボイルドな男の友情を描く刑事小説

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解説

トラック強奪事件は「スズキ」による復讐計画

今回の話のメインとなるトラック強奪事件を計画した「スズキ」こと大平和成は意図して元刑事の「タカハシ」、「サトウ」こと小宮翔太、そして襲われる役のトラックドライバー・「ワタナベ」こと奥田亮を集め、強奪事件をでっち上げようとします。しかし、これは全くの嘘。「ワタナベ」や「サトウ」の前に金をちらつかせ、この犯罪計画を綿密に、周到に計画しすっかり信用させます。そして脅しのために用意した実弾の入っていない拳銃を見せトラックを奪う。と思わせ、「スズキ」は手に入れていた実弾入りの拳銃をドライバー「ワタナベ」に発砲、そのまま逃走してしまうのです。当然用意していた逃走用のバンも「スズキ」の手によりすぐにガス欠するように仕組まれ、追走できないようにされていました。つまり、「スズキ」は最初から「ワタナベ」を手にかけるために今回の犯行計画を立てていたことになります。

その後、逃走する中で「タカハシ」と「サトウ」は撃たれた「ワタナベ」が亡くなったことを知ります。身をひそめる「タカハシ」に対し、「スズキ」を追いかけようとした「サトウ」でしたが、彼もまた「スズキ」の手により射殺されてしまうのでした。

いったいなぜ「スズキ」は「ワタナベ」や「サトウ」を殺害したのか、そしてなぜ「タカハシ」も含めた3人を計画に集めたのか。そこには「スズキ」の身に起こったある悲劇の復讐のためだったのです。

それがプロローグに登場する野中果帆の話。交際していた男性から結婚の話をレストランで受けるはずだった彼女は、とある事件で警察からの聞き込みを受ける羽目になってしまいました。そのため使うはずの無かったタクシーに乗ることに。しかしそのタクシーが衝突事故を起こし、彼女は亡くなってしまうのです。

この交際相手こそが「スズキ」で、果帆の乗っていたタクシーを運転していたのが「サトウ」、「サトウ」のタクシーに衝突し事故の原因を作った後ろのタクシーを運転していたのが「ワタナベ」。そしてそもそもタクシーに乗る羽目になった原因となった事件の聞き込みを行っていたのが「タカハシ」だったのです。

ひったくり事件捜査の最中、起きてしまったもう1つの悲劇

ひったくりの事件を追っていた刑事の竹部明は、無鉄砲に捜査を進めてしまいがちで一匹狼的な存在。そんな彼の監視役としてバディを組んでいたのが同い年の河上利通という刑事。相棒になって4年がたった今では互いを信頼しあうコンビとなっていました。ただこの事件の捜査中、河上はいつもと違い不機嫌だったりどことなくおかしな行動をとっていました。というのも、彼の妻・由香が1か月前あたりから急激に心を病んでいて、周りに当たり散らしたり、警察に電話を入れわめいたりするなどしていて、関係がうまくいっていませんでした。そのような状況でも正義感の強い河上は何も語らずに捜査を行っていたのです。たとえ、キャリア上司である近藤に嫌味を言われ、捜査を外されそうになっても。

そんな中、独断で捜査を続ける二人が事件の聞き込みを行っていた最中、情緒不安定になっていた河上の妻・由香が自殺をしてしまいます。挙句に妻の両親から一方的になじられ、葬儀も墓参りも許されない仕打ちを受けた河上は、この出来事を機に刑事を辞することになるのです。その後一人きりとなった竹部はなんとか河上に戻ってきてもらおうと情報屋を通じて彼を尾行し、その動向を探っていたのでした。

「タカハシ」は河上のことだった

一方で「スズキ」もまた、竹部と同じ情報屋を使って河上を尾行していました。彼もまた「ワタナベ」や「サトウ」同様、「スズキ」の身に起きた悲劇に間接的にかかわっていたためです。しかし金で釣ることのできた「ワタナベ」や「サトウ」に対し、元刑事である河上をこの計画に誘うのは至難の業です。そこで、「スズキ」は「河上の妻が自殺した原因を教える」という条件を突きつけ、河上を加担させることに成功したのです。

この計画での名前は取引をしたビルの名前から「タカハシ」としました。つまり、「タカハシ」は河上のことであり、ひったくり事件はトラック強奪事件の半年前のことだったんですね。

「スズキ」と河上の似た境遇

こうして「ワタナベ」や「サトウ」を殺した「スズキ」は、最後に河上も殺害しようと近づきます。明らかになる、あの夜に起こった野中果帆の事故死のこと、そして河上の妻の自殺のこと。二人はほぼ同時期に大切な人を失ったという共通点を持っていて、「スズキ」は河上に対して特別な思いを持っていました。事件のすべてを竹部に電話しようとする河上の前に、「スズキ」は「河上の妻の墓に行けば探している答えが見つかるかもしれない」と語るのでした。

明らかになる妻の秘密、そして続く友情

河上がいなくなったのを機に、キャリア上司の近藤の本心を理解してからは関係が良好となったり、またすぐに切り捨てていた情報屋を助ける行動をとるなど、竹部は刑事として変わってきました。

そして河上は警察に連行される前に、竹部、そして近藤の了解を得て妻・由香の墓参りに。その中でお菓子やジュースなど子供のお供え物が置いてあったことに気づきます。義理の父に電話で確認を取ると、由香は河上にも秘密にしたまま妊娠・そして流産していたのでした。出産するか決心に悩んでいる中での流産が自殺の前の挙動になったこと、墓参りを拒み続けた理由は流産の事実を隠すためだったのです。また、由香の遺体を解剖せずに遺族に速やかに引き渡すよう、近藤が裏で手を回していました。つまり、由香の自殺を河上が一人で背負いこみ過ぎたということでしょうか。周りもその気持ちをおもんばかって動いていたということですね。

最後に河上は半年分のすべてを竹部に謝罪します。竹部は河上が通い詰めていた地下の店を気に入り、代わりに通い続けること、そして河上を待ち続けることを告げるのでした。

感想

ある出来事をきっかけに大切な人を失い、その復讐のために動くという行動が軸となる話は、東野圭吾著「使命と魂のリミット」でもあるんですが、復讐の名のもと、たとえ八つ当たり的な、不条理な、身勝手な行動でも正当化してしまう犯人の怖さってありますよね。また、大切な人を失い、道を踏み外してしまう怖さも感じられました。最終的にはまだ救いのあるラストだったのでよかったですが。