今回はエムラン・メイヤー著「腸と脳: 体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか」をご紹介します。
そもそも私がこの本を手に取ったのは、このところ体調が芳しくないということもあったり、また精神的に不安になることが多くあったりしたためです。その中で脳の障害や体の病気との関連に関心を持ち、どうすれば健康を保てるのか情報を取り入れたいと思い、この本を知りました。
元来消化器系に関する我々の理解としては、体を機械と見なしてどこかが壊れた時はそこだけをメンテナンスすればいい、あるいはパーツを取り換えればいいという単純な考え方をしていました。しかし、本書では”「実は消化器系と脳は密接な関係にある」”、例えば重大な岐路に立たされた時の決断においても、腸と脳のコミュニケーションが関与すると指摘しています。腸に宿っている微生物を通して、感受性や社会的振る舞いに影響を及ぼすのです。昔は消化器系で不具合があった場合、神経を切ったりするなどの手術も行われていましたが、それによって脳とのコミュニケーションが取れなくなり、体の不調がさらにひどくなるということもあったようです。
このように体、もっと言えば消化器系は機械というよりも、最先端のスーパーコンピュータに例えられ、脳のビッグデータに蓄えるための情報を腸内の微生物を介して送っているのです。
Contents
本書で主に用いられる言葉
- 脳腸相関
- 脳と腸の組織が密接に関係していること。
- マイクロバイオーム
- 腸内微生物を遺伝子的な観点から表したもの。
- マイクロバイオータ
- 腸内微生物の集合体。
- 内臓刺激
- 腸内で生成された感覚情報が脳に送られる刺激。
- 内臓反応
- 内臓刺激を受けて脳が腸に送るシグナル・反応。
- 内臓感覚
- 内臓刺激が脳で処理された後で生じる状態。脳のデータベースに蓄えられ、その後何らかの判断を下すときに参照される。
- 漏れやすい腸
- 「リーキーガット症候群」のことで、不要な栄養素から分子までを腸壁から吸収してしまうことで人体に悪影響を及ぼす。
腸内微生物の多様性と脳疾患に対する脆弱性
例えば腸と脳の密接な結びつきとして、腸内微生物と脳疾患の関連性が書かれています。それによると、
マイクロバイオームが確立する途中は微生物の数・多様性の程度が低く、この時期には自閉症スペクトラム障害などの神経発達障害に対する脆弱性を生みやすくなる、また、微生物の多様性が徐々に減退していく高齢期にはパーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患を発症しやすい期間に一致している。このことから腸内微生物の数・多様化の低下は障害を誘発しやすいと考えられている。
ストレスに反応して引き起こされる内臓反応
脳がバランスの取れた正常な状態からストレスを受けるとどうなるのでしょうか?
まず脳は組織の健康を改善して、生存の可能性を高めるために調整された反応を起こす。例えばストレスを受けることで脳内で分泌された「副腎皮質刺激ホルモン因子」が、近傍の脳領域に働きかけてストレスホルモンの増大をもたらす。このプロセスにおいて内臓反応が引き起こされるため、マイクロバイオータの活動にも影響を及ぼす。
特に幼い頃に逆境を経験すると、脳の構造、さらには周囲の危険や身体刺激の意味を評価する役割を果たす脳のネットワークの神経活動、いわゆるサリエンスシステムにも変化を起こしていることが分かった(そのように脳が配線されてその状態が大人になっても続く)。そのような人には心配や不安を抱えがちだったりする傾向があるが、中には胃腸の痛みを引き起こしたり、ストレスに敏感に反応する、IBS障害を発症するケースもある。
腸とマイクロバイオータと脳の関係
脳腸相関は外界とも密接に結びついているとされています。
脳はストレスや逆境、支援といった様々な心理や社会的影響に反応、腸は体内に取り込まれた食物や薬、感染性生物に反応する。その中で最適な消化機能や脳の機能を維持するための免疫を生成するため、膨大な量の情報を統合する。
この中で中心的・しかも必須な役割を果たすのが、マイクロバイオータなのです。
内臓感覚と直感の違い
よく直感と言われる論理的な思考に頼らずに結論を出すものと、内臓感覚というものは表裏一体の関係にあると言えます。
腸とマイクロバイオームから送られるシグナルが神経や血液を通じて脳に送られる。そして島皮質と呼ばれる後部で受け取って処理され、いわゆるサリエンスシステムによって内臓感覚として意識上に取り上げるか否かを判断する。(吐き気や嘔吐などの内臓刺激を起こしたりする。実際には情報の中で内臓感覚として気づかれるのはわずかな部分のみ。)
食生活とマイクロバイオーム
マイクロバイオームが食物から得た影響は、成人後の腸内微生物の多様化や疾病からの回復力に大きくかかわってくる。このプロセスでのプログラミングエラーは種々の健康障害を発症するリスクが高い。つまり、幼少期に何を摂取するかが重要になってくるわけですね。また、胎児期から乳児期にかけて、成人後、高齢期という3つの時期に健康障害による攪乱を受けると、健康が最も損なわれやすく、特に胎児期から生後数年にかけては生きる上での健康に最も重要な時期とされています。
本書では、アメリカの一般的な食生活の影響について書かれています。先史時代の生活様式を維持する民族に比べ、腸内微生物の多様性が三分の一ほど失われているというのです。また、欧米で暮らす雑食者と完全菜食主義者にはマイクロバイオータにさほどの違いが無く、食習慣は腸内微生物の構成を変えず、微生物の生成する代謝物質を変えることが分かってきています。つまり、マイクロバイオータの持続的な影響を受けるには、やはり幼少期における曝露は必須となります。
では、何を食べるべきか。例えば動物性脂肪の多い食事をとると、腸の免疫系が低悪性度炎症を引き起こすことが分かってきています。動物性脂肪の多い食物は、マイクロバイオータや代謝物質を秘密裏に操作してしまう。特に最近のアメリカでは肥満は深刻な問題になっており、食欲をコントロールする機能が不全になっている。もともと、食生活を切り替えてもマイクロバイオータは多様性によって対応することができていた。しかし、今日のアメリカにおける食生活は50年前のそれとも根本的に変わってしまっており、この劇的な変化に対応する防御手段を身に着けていない。この逸脱した食生活によって健康面の問題や、更には脳の慢性疾患といった大きな問題が出てきているのです。
人工甘味料や乳化剤、グルテンといった添加物は特にマイクロバイオームに異変をもたらし、健康面に問題を起こす働き方をしてしまうとされています。そのためには植物性の食物を多くとることが大事。先史時代の食習慣だったり、菜食主義、あるいは地中海式食事法というのも最近では健康に良いことが判明しています。
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